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教養が人間性を育む 1

科学は本来、善でも悪でもない。良いことにも使えるし、悪いことにも使える。毒にも薬にもなる性格を持っている。ーーーこう述べたのは理論物理学者の湯川秀樹博士です。日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞。核兵器と戦争の根絶を呼びかけた「ラッセル・アインシュタイン宣言」に署名した11人のうちの1人で、平和のための活動にも尽力をしました。今年は没後40年に当たります。

博士は数多くの著述を残しました。それらは多くのことを考えさせてくれます。例えば、著書「現代科学と人間」のタイトルにある「と」という助詞。博士は、一般的な「そして」という意味で使ったのでしょうか。私には、対立する「現代科学」「人間」の二者を並べ、そこから両者の統一を求める、という表題のように思われます。

「現代人の知恵」と題する一文にも、科学文明の発達と人間の幸福を巡る思索がつづられています。科学とは「人間の前に常に開かれている未知の世界を開拓してゆく努力のあらわれ」であり「人間にとっての新しい可能性の発見」とする博士は、その発見を「幸福と繁栄への可能性の発見」かもしれないし、「人類の破滅と人間性の喪失への可能性の発見」かもしれないと述べました。

科学を用いるのは人間。ゆえに科学者は、常に人間の幸福を並置して考えなければならない。それが博士の足場だったのでしょう。「私たちは善良であると同時に賢明でなければならない」とも指摘する思索の足跡に触れると、行動する科学者・湯川博士人間性を育んだ近代日本の教養の厚みが感じられるのです。「知恵」とは「教養」。教養は常に、新規なものの反措定(アンチテーゼ)でなくてはならず、「人間」に足場を置かなければなりません。

 

善良・賢明であれ

教養には、前の世代から伝えられるものとともに、時代や社会といった周囲の影響を受けて身に着くものがあるように思われます。博士は小学校に入る前から祖父について漢籍素読したと振り返っていますが、このような経験は前者に当たると考えられるでしょう。周囲の影響を考えると、明治40年生まれの博士にとって、10代は大正時代に当たります。この時期、カラーオフセットなど技術革新によって印刷物の品質が格段に上がり、新聞や雑誌、書籍が千・万単位で量産されるようになりました。近代のエゴイズムに目を注いだ夏目漱石、深層心理を描く西洋の文学を紹介した森鴎外をはじめ、武者小路実篤志賀直哉北原白秋石川啄木、木下杢太郎、与謝野鉄幹・晶子ら、人間の内面を描く作品が広く読まれるようになったのです。